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『かわいそうに』と…出かけたお父さん

9月9日
読了時間: 3分

県外から上高地へ観光に来られる、犬連れのお客様が時々いらっしゃいます。上高地には犬を連れて入ることができないため、その間、数時間だけワンちゃんをお預かりすることがあります。

今回来てくださったのは、福島県からご家族でいらしたお客様。

お父様の腕の中には、大切そうに抱かれたチワワのみるくさん4歳がいました。

うちでは、新しいお客様が来ると、看板犬の秋田犬たちも、お預かりしているワンちゃんたちも、「誰か来たぞー!」とばかりに、一斉に鳴いてお出迎えをします。

私にとってはいつもの光景で、「まあ、犬がたくさんいる施設だから仕方ないよね」と思っていました。

ところが、お父様の表情がみるみる曇っていきました。

みるくさんを守るように、腕の中にぎゅっと抱き直します。

秋田犬たちもお預かりのワンちゃんも建物の中にいるので、みるくさんの近くに来ることはありません。それでも、たくさんの犬の鳴き声が気になったようです。

「ランには出さなくていいですから」そうおっしゃって、みるくさんはすぐにお部屋へ。

そして、「かわいそうに、かわいそうに」

と言いながら、みるくさんを置いて出かけていかれました。

私は、なんとも複雑な気持ちに……。

「そんなにかわいそうなら、上高地の観光を我慢して、一緒にいればいいのに」

なんて、心の中でちょっぴり思ってしまいました(笑)。

「うちはドッグホテルなので、他のワンちゃんもいるんです」と、当たり前のことをお伝えすると、お母様は、「そうですよねぇ……」とお父様をたしなめるようにおっしゃいました。最後までお父様は、なんとも不服そうな表情のまま、車に乗り込んでいかれました。

さて、残されたみるくさんはというと——。

最初こそ、ほかのワンちゃんに吠えていましたが、しばらくするとすっかり落ち着きました。そのうち自分からお部屋の入口までやってきて、ほかのワンちゃんとクンクン、ごあいさつ。「これなら、一緒にランに出ても大丈夫そうだな」と思うほどでした。

でも、「ランには出さないでほしい」という飼い主様のご希望です。そこはもちろん守って、みるくさんにはお部屋で過ごしてもらいました。

私にも尻尾をふりふり。「撫でて〜」とでも言うように近寄ってきます。

おやつもしっかり食べて、とても愛らしいみるくさん。

飼い主様が心配されていたほどには、みるくさん自身は不安そうでもなく、けっこうリラックスして過ごしていました。

そして数時間後。

お迎えに来られたお父様に、「大丈夫でしたよ。とても落ち着いて過ごしていました」

とお伝えすると、とても安心したお顔をされました。

そしてまた、みるくさんを大事に、大事に腕の中に抱いて帰っていかれました。

その姿を見て思いました。

本当に、この子が大切で仕方がないんですね。

最初は少し複雑な気持ちになった私でしたが、お父様のあの心配そうな表情も、「かわいそうに」という言葉も、全部そこからだったのです。

愛犬を誰かに預けるって、飼い主様にとっては、案外勇気のいることなのかもしれませんね


 
 
 

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